フランスのブイヤベース



フランス料理文化センター事務局長 大沢 晴美


ブイヤベースの起源は紀元前7世紀の古代ギリシア時代、マルサリア(現在のマルセイユ)といわれます。
ローマ神話にも登場し、ビーナスが乱暴なバルカンに食べさせ眠らせた、との話もありますから、地中海人にとっては、欠かせない郷土料理。
煮て沸騰させる「bouillr」火を弱める「abaisser」、というふたつの言葉が料理名となったところからも、火加減が調理のポイント。
ところで本場マルセイユのレストランでさえ魚臭さがでてとても食べられなかった、という苦い経験をしたことがあります。
漁師が、売れ残った魚(岩礁魚)を煮込んで作ったシンプル料理というのが定説ですが、不可欠とされるのがサフランとニンニク。けれどもオリエントから輸入されるサフランは黄金のように貴重なものだったので、当初からサフランを使ったとは思えません。フェンネルなど、地元の野生のハーブを多用して臭みをおさえたのでしょう。
とにかく、まずスープにニンニクをこすったトーストをいれていただき、つぎに具である魚をいただくという、一品で前菜もメインにも、という質実剛健なブイヤベース。海に生きた地中海人のハートが生きています。
ちなみに、ブイヤベース発祥の地、マルセイユではこの伝統のレシピを保護するために「マルセイユ憲章」でレシピの詳細を規定しています。
ここでは材料の魚の種類から、調理方法まで、厳格な規定がありますが、たとえばパリでは「パリ風ブイヤベース」といって、スープをバターモンテしてソースを仕上げたり、イカスミを使って「ブラック ブイヤベース」を作ったり土地柄がでています。
郷土の食材をいかして行くのが、「郷土料理」の基本ですから、どんな「八戸ブイヤベース」が登場するか、楽しみですね!





八戸みなと漁協組合長 熊谷 拓治


今から30年ほど前のこと。八戸の漁業者達がフォークランドに入漁する交渉で、ロンドンを訪問。交渉後、高級海員クラブに案内された。
立派なメニューを見て仰天。何を書いているのか全くわからない。
「何でも良いじゃ。一番高いもの!」通訳の説明でシェフが大きく頷いた。
「ドーバーソール イズ ザ ベスト!!」やがてその高級料理が出てきた。ドーバー海峡の大きな舌平目のムニエル。ところが八戸の漁師達はガッカリ。
「なんでぇ。これぁベゴすただじゃ」※ベゴすた(牛の舌)八戸市内で使われる舌平目の俗称。
ロンドンの高級魚は八戸の大衆魚だった。
八戸に生まれた幸せ。
ブイヤベースは南仏の港町マルセイユの漁師料理。大鍋に地中海の魚を入れてスパイスで煮立てた海鮮スープの逸品。
魚は、クエ、メバル、カサゴ、オコゼ、ソイなどの白身のもの。それにムール貝や海老、蛸なども入れる。スパイスはサフラン、フェンネルは必須。
マルセイユは北緯45度。八戸は42度。しかも強風の港であることも共通している。勿論魚種の多いことも同じだ。それならば、八戸風ブイヤベースを楽しんで当然だ。
八戸港に水揚げされる白身の中でブイヤベースにピッタリなのはアンコウ。八戸のフォアグラと言うべき肝も旨い。キンキンも最高。タラも良いが煮くずれしない腹肉が私は好き。
八戸らしいという意味ではヘビダ(カスペ)。勿論、メバルやアイナメ。貝では仏国のムール貝は八戸のシュリ貝。
ホタテやイカ。イカは煮ても固くならないヤリイカだ。こう並べてみると八戸風ブイヤベースの何と魅力的なことか。
しかも、まだまだ試したい魚はある。
恐らくマルセイユではワイン、それも白ワインが付きものだろう。最近日本酒が外国でも「SAKE」「ライス ワイン」としてよく飲まれるようになった。
八戸ではその「ライス ワイン」だって名酒が多い。
八戸ブイヤベースに八戸の名酒。八戸の味をしっかりと楽しんでみよう。ノドがゴクリと鳴った。