在日フランス大使館経済部濃霧参事官 フレデリック・ミシェル


ブイヤベースは、地中海に面した大きな港であり、フランス最古の町でもあるマルセイユの食文化のシンボルと言える料理です。

典型的な郷土料理としてのブイヤベースの歴史は、古代にまで遡ることができ、岩場に生息する魚はもちろんのこと、オリーブオイル、にんにくや様々なスパイスなど、地中海料理特有の食材を結びつける大切な一品です。

この度、ブイヤベースは八戸ハマリレーションプロジェクト様のご尽力により、日本の地で、日本の昔からの品質の高い食材に出会って新たに花を開かせることができました。

実は、「ブイヤベース」にはもう一つの意味があります。「混ぜる」という意味です。これはまさに、日仏の文化の交流ということになります。

つまり、私たちがお互いにもっているノウハウを尊重しつつ、その知恵が今ここで役に立っているというわけです。
皆様、どうぞたくさん召し上がってください。

八戸ブイヤベースフェスタに寄せて


日本ホテル株式会社取締役
ホテルメトロポリタンエドモンド名誉総料理長
 中村 勝宏

フランス料理は世界の無形文化財に指定され、改めてその素晴らしさが認知された。
フランス料理は二つに大別することが出来、一つは昔より王侯貴族の手厚い庇護の下で数多の名料理長が技術の向上に努め、育んできたフランス料理の最高峰「宮廷料理(古典料理)」。 あと一つはフランス各地の風土と共にその地方で長い年月をかけ育まれ、作り続けられてきた「地方料理」である。この地方料理の中には先の古典料理にも匹敵する優れた料理があり、さしずめブイヤベースはその最もたる料理であろう。
 南仏のさんさんたる太陽を浴びて育った野菜と地中海の海の幸を素材として作られた料理は、南仏で最も愛される「鍋料理」であり、フランスを代表する料理でもある。大人数分のたっぷり素材を使用して作ることによってこそ美味に仕上がる。
 ブイヤベースは奥の深い料理で、その折々の場合に沿って様々なブイヤベースがある。ごく一般的な家庭での、親しい友人やお客様を招いてのブイヤベース、小さなレストランのシェフ達による愛情こもったものや、 専門店での本格的なブイヤベースから高級店での豪華なものまで幅広い。ブイヤベースの本場とも言われるマルセイユ地域では「マルセイユ風ブイヤベース」と言われる実に美味なブイヤベースが作られ専門店も多い。 他と比べ実際にどこが違うのかと言えば、まずベースとなる魚のスープの素材が異なる。
 マルセイユ界隈の海には南仏独特の地形からなる岩礁が多く、「ボワソン・ド・ロッシュ」と呼ばれる七種ほどの小魚が群れている。 天気の良い朝にマルセイユの旧港に行くと漁師が自分の船で獲って来たばかりのまだうごめいている小魚を山にして量り売りしている。 土地の人々はこの小魚にニンニク、玉ねぎ、トマト、サフランなどを加え名物の「スープ・ド・ポワソン(魚のスープ)」を作る。小魚故にウロコも内蔵も取らず、又真水で洗う事もない。 独特のこくと風味の本格的なマルセイユ風ブイヤベースとなる。そこにニンニク風味のカリカリに焼かれた「クルトン」と「ルイユ」と呼ばれるニンニクと赤唐辛子をすりつぶし、サフランとオリーヴオイルを加えてマヨネーズ風に作ったソースみたいなものが添えられる。

八戸では昨年からこのブイヤベースをテーマに地域の食の活性化を図る為にフェスタとして活動されているそうであるが実にすばらしいことではないか。 料理の本質というものは、そこの風土と一体化して作られるべきものである。八戸にはブイヤベースには欠かせない見事なニンニクがあり、そして港で水揚げされる豊かな海の幸がある。 もうこれだけで立派にブイヤベースを作る素地があるわけだ。あと必要とされるのは作り手の情熱だけである。いつの日か八戸風のブイヤベースが確立され、日本全国に知らしめられる日が来ることを 心より願う。その為に、微力ながらも役だっていきたいと思っております。



~中村勝宏(なかむらかつひろ)プロフィール~

1970年に渡欧し、「ロアジス」「ラセール」「トロワグロ」など数々の有名店で約15年間研鑽を積む。
1979年にパリの「ル・ブールドネ」で日本人として初めてミシュランの1つ星を獲得、以降4年間守り通す。
1984年に帰国し、ホテルエドモンド「フォーグレイン」料理長に就任。
SOPEXA(フランス食品振興会)、FFCC(フランス料理文化センター)への協力を通して業界発展に寄与するかたわら「各地の地産地消」におけるプロデュース、料理セミナー、講演会、雑誌、テレビなどで活躍。
2008年7月北海道洞爺湖サミットでは総料理長として、世界の要人の晩餐会を指揮した。
日本のフランス料理界を代表するシェフ。鹿児島県出身。